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*その他の国の場合と全体の総括(まとめ)
以上に見てきたように、ある程度の共通項を括りだすことは可能である。その他の国についても、基本的には、このサイトで検討したような事項が当てはまる。あくまで、分かりやすさを優先させ、一般論として言えば、国際結婚をする場合、国際私法の世界では、どこの国でも多かれ少なかれ、当事者の本国法を何らかの形で考慮はする。全く無視するのは、外交儀礼にも反するし、当事者の身分関係を不安定にしてしまうからであると解される。但し、どの程度を考慮するのかは、その国の国際私法の解釈に拠るものである。
それはいわゆる実質的成立要件の問題を考慮することが多い。たとえば、A国人とB国人が婚姻する場合、A国で婚姻する場合、A国は、B国人につき、B国の本国法を考慮することが多い。他方、逆に、B国で婚姻する場合、B国は、A国人につき、A国の本国法を考慮することが多い。
ただ、郷に入ったら郷に従えという発想も強い。たとえば、日本で婚姻する場合、日本の国際私法は、婚姻の「方式」(形式的成立要件)については、外国人の「方式」では婚姻できない。たとえば、日本人とB国人が婚姻する場合で、日本の教会に婚姻届を出しても、それがB国では有効でも、日本の法解釈では、直裁には、有効ではない(レジストラ111・88)。もっとも、それによって生成された婚姻証明書が婚姻要件具備証明書の代用となり、市区町村では「創設的婚姻届」として受理可能な場合があることに注意が必要である(レジストラ111・89はこれを「(無効な)報告的届出」の「創設的届出」への転換ともいうべき趣旨で説明される。)。
さて、相手方の国の本国法を考慮するわけであるが、しかし、A国にとって、B国人がB国で婚姻の要件を具備しているかは、必ずしも、明らかではない。同様に、B国にとって、A国人がA国で婚姻の要件を具備しているかは、必ずしも、明らかではない。
そこで、便宜上、A国はB国人につき、B国の政府発行の「婚姻要件具備証明書」を求め、B国はA国人につき、A国の政府発行の「婚姻要件具備証明書」を求める。これがあれば、一番簡便に審査が可能になるのである。
これを一般化し、別言すれば、A国人とB国人が婚姻する場合、A国で婚姻する場合、B国人につき、B国で発行された「婚姻要件具備証明書」ないしそれに準じるような証明書が、原則として、必要である。他方、逆に、B国で婚姻する場合、A国人につき、A国で発行された「婚姻要件具備証明書」ないしそれに準じるような証明書が、原則として、必要である。
もっとも、「婚姻要件具備証明書」の類を発行しない国もあるし、また、発行しても、A国やB国が十分な記載事項だと考えるとは限らないから、その場合、在外公館等での「宣誓供述書」(Affidavit)の類や供述書の署名認証、国によっては、単なる供述書の類を求めて、補ったりする。日本の戸籍実務でいう申述書はこれに当たる。
また、供述書の類ではなお足らず、出生証明書や家族登録簿等の書類が必要な場合もあり得るし、必須ではないが、望ましい場合もある。その判断はその国の判断である。実際には、必用な書類の範囲は一律に決められない側面もある。なぜなら、出身国によって、身分関係の公示制度や公的証明書の射程範囲が異なるからである。その結果、実際の現場では、法は不能を強いずの法理を背景とし、可能な限りの書類を収集するという結論になる場合も多い。
他方、国によっては、偽装結婚や人身売買が多発し、問題が多い場合、適正手続の見地から、当事者の実態に係る資料までも要求し、それが「在職証明書」や「納税証明書」等の実態関係の資料が必要だという発想に結び付き易い。また、法的に、これらを直接、婚姻届の要件とすることが困難な場合、「婚姻要件具備証明書」の発行の際にその種の書類を要求するという体裁を借用することもある。
これに加えて、国によっては、カトリック等の宗教が婚姻に要件に影響を与える。この結果、一般には、婚姻手続はより複雑な手続が必要になり易い。
また、国によっては、家族的結合の社会保障機能が重要な場合もある。そうした場合、当該家族の中に入るうえで、当該家族の意思的介在等、一般には、婚姻手続はより複雑な手続が必要になり易い。
このようにみてくれば、何故その書類が必要なのか、何故その手続が必要なのか、理解できる場合が多くなるであろう。ひいては、相手方の国を理解するうえで役にも立つといえる。
さて、A国が外国で、B国が日本であるとして、なるべく両国で有効に成立させるにはどうすべきか。あくまで一般論に過ぎないが、一般論的には、日本のほうが婚姻の成立に関し、弾力的な場合が多い。成立範囲につき、A国と日本との同心円を描けば、日本がA国の範囲を包含する場合が多い。したがって、在特事案でないなら、A国で先に成立させ、日本へ報告的届出にすることが最初に検討するに値する。なお、そのような場合、「創設的届出としても受理し得る体裁」が望ましいであろう(レジストラ111・89参考)。
ただ、国際私法の研究者や実務家の間では、A国で有効でもB国で無効だとか、B国で無効でもA国では有効であるといった跛行婚が生じるのは、国際私法の性質上、ある程度は、やむを得ないとされる。
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【応用FAQ】
Q:最近、妻から聞いたのですが、実は、妻の名前は別人であり、不法入国していました。私は、その別人名義のままの妻と結婚していました。妻は私に言い出せなかったとのことです。全ての書類が偽物でした。どうすればいいでしょうか。なお、妻は日本で私と同居しています。
A:これは、不法入国者が、他人名義のまま婚姻してしまった場合にどうすればいいかという問題である。このような場合、各種身分証明関係資料を取り揃え、家裁での戸籍訂正の申し立てを行い、訂正許可の審判を経由したうえでの、市区町村での訂正の申請が要る(東法戸籍回答。2006Nov02)。そうすれば、婚姻を維持できる。また、入管での裁き(退去強制手続)も必要である。なお、このような場合の本人は、最悪の場合、公正証書原本不実記載罪と、不法入国の罪との併合罪に該当し、昨今は厳しく、初犯でも実刑(刑務所行き)の可能性があり、出所後、そのまま入管に収容され、強制送還になって、その後、半永久的に入って来れらない。ゆえに、法律家の適切かつ迅速な人権救済がなければ、助からない場合がある。無知とは恐ろしいものである。渉外法務に関わる行政書士は知識としてこの程度は持っていてよいと思われる。
Q:私の妻はこれといった法律に違反するようなことはやっておらず、それどころか、日本へ来たことすらありませんでしたが、2回日本人の配偶者等の認定の申請をし、苦節1年半、2回とも不許可でした。原因は、私が当初軽く考えたために、提出した書類の内容にちょっとした不備があったからです。世間の常識では、問題にならないようなことが入管で問題になるので、驚きました。
3回目の認定の申請で行政書士に依頼し、ようやく、交付されました。不思議にも今まで、一回申請する度に半年近くも待たされたましたが、今回は本当にわずか1か月でした。最初は、ここまで厳しいものとは思っておらず、最初から相談しておけばよかったと本当に後悔しています。
そこで、彼女の国にある日本領事館で査証申請を行いました。査証申請するのも大変で、彼女の国の場合、まず、一度、領事館まで行き、入場券をもらいました。その券は、1週間後くらいの特定の日時に入場できるというものです。私は、心配だったので、会社を休んで、現地まで渡航しました。
入場券に記載された日付の日に申請書類を出し、受理されました。その二日後に、面接の日時が指定され、現地では面接が行われ、行政書士の先生とある程度、想定問答を考えていましたが、予想もしない質問がされました。その内容というのは、普通の新婚の国際結婚夫妻では答えられないようなものもあり、あんな質問で人生が左右されるのかと思うと、許せない気持ちになります。行政書士の先生に相談したところ、領事館でのその質問というのは、入管での不法滞在者の取り調べと比較して、非常に安易な質問であり、質問の量と内容からみて、また、入管と比較して、ただ単に不許可にする口実を見つけるために行っているとしか思えない、とのことでした。
そのうえ、面接後、領事館職員からは、後日、結果を通知すると言われました。この面接の際、領事館の周辺で何人かの日本人の男性の方と知り合いました。彼らもまた、私と同様、国際結婚した話で、曰く、「私ももう2年もこんなことやってるよ」、「私なんかもう3年だよ」と皆言うので、驚きました。自分だけではないと思っていましたが、こんなにいるとは思いませんでした。
さて、そうして、ますます不安な気持ちになって、領事館の敷地を出てきたところ、現地人のおばさんが寄ってきました。そのおばさん曰く、「1週間後に来てくれと言われる人は、許可で、後日通知すると言われる人はほとんど不許可だ。あなたのケースはダメかもしれませんよ。私は、領事館の人を知っています。何人か間に入るかもしれませんが、話を付けてあげられるかもしれません。どんなケースも許可にできるわけではありませんが、許可されなければお金は要りません。」、などというのです。ここで、普通の人なら、そんなものとすぐ拒否するでしょう。しかし、私と妻は1年半も待たされ、何回も不許可にされたので、精神的にもう限界でした。藁をもすがる思いで、その話に強い魅力を感じたのです。その金額は非常な高額です。妻はどうしたらいいかというのです。確かにその国は賄賂の横行する賄賂文化の国であり、妻が動かされてしまうのも無理ありません。
そのおばさんは、「但し、絶対に誰にも言わないように。」と言っていましたが、お世話になっている行政書士には黙っていたくなかったので、国際電話で日本にいる先生に電話しました。(以下省略)
A:クライアントからこのような話を聞くたびに私は強い憤りを感じる。この話で領事館職員が本当に収賄していたら、外務省が倒産するような話である。実はこの手の話は、特定の国だけではなく、世界中の日本領事館で生じている。中には本当に収賄していた可能性のある話も聞く。現地人の女性と関与していた職員もいた(後に自殺)わけで、皆無とは思われない。現在、遺憾ながら、公務員への信用性は著しく低い。グーグルニュースアラートで、「収賄」の語句で、チェックしていると、毎日のように公務員が収賄で逮捕されている。だからこういう話が出るのである。
但し、ほとんどの場合、詐欺であり、決して、領事館周辺でたむろする現地人等の話には乗らないことである。なお、上記のクライアントに、私はこう答えた。「お二人の愛に自信はありますか。ならば、堂々と勝負するべきです。私は受任した案件で、刑務所で服役していた人ですら、あくまで正規の手続きで、法的知識、経験、ノウハウを駆使し、法務省、外務省の両省から特別に許可を得たことすらあります。本件はそのときと同レベルの資料を出しています。お二人のケースは裁判ですら通用する立証手段、証拠資料等で、申請したのですから、何も不安になる必要はありません。もしそれで不許可になるとすれば、それはその担当の外務省職員に悪意、故意、過失があるとしか思われません。正義は必ず勝ちます。」、と。実際、私には自信があった。この事案よりもはるかに厳しいケースで許可を得てきた自負。単なる慢心ではない。この事案、この立証で不許可にするなら国家賠償は確実である。
ただ、こう言ったところ、その夫婦は、これまで散々、外務・法務、両省の職員から酷い目に遭ったため、実際問題、悪意、故意、過失があるとしか思えない、○○国人を嫌悪しているとしか思えない、人間ではない、ロボットであるという、そういう職員に本当に遭遇したことがあるので、なお不安だと主張されていたのであった。行政不信の極みである。その一方、司法は全く機能していないに等しい。この分野では、担い手がいないので、司法権は存在しないに等しく、実効性がないので、誰も利用しようとしない。
なお、念のため、付け加えておくが、賄賂の罪は、一種の必要的共犯であるが、贈賄も処罰する。従来、贈賄罪は、国民の国外犯を犯罪構成要件としなかったが(刑法3条)、刑法3条は6号に198条(贈賄罪)を挿入する形で、改正が予定されている。絶対に賄賂を提供してはならない。なお、賄賂には、金銭のほか、女性の紹介、酒食の提供等も含む。改めて学生のころに勉強した法文を見てみたが、法定刑が案外軽いような印象を受ける。2006Nov04
※参考
刑法
(収賄、受託収賄及び事前収賄)
第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
2 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、五年以下の懲役に処する。
(贈賄)
第百九十八条 第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。
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