|
|
*タイ人国際結婚手続き1
Q:タイ法での婚姻の実質的成立要件と日本法での婚姻の実質的成立要件にはどのような違いがあるでしょうか。
A:中国、フィリピンに続き、次にタイを検討する。試論2005Aug16
|
タイ
|
日本
|
婚姻意思の合致*1
|
必要(民商法1458条、1496条、1505条)
|
必要(民法742号1号)
|
婚姻年齢*2
|
男性17歳、女性17歳(民商法1448条、1503条)
|
男性18歳、女性16歳(民法731条)
|
重婚の禁止*3
|
あり(民商法1452条、1496条)
|
あり(民法732条)
|
近親婚の禁止*4
|
あり(民商法1450条、1451条、1496条])
|
あり(民法734条)
|
疾病(等)による禁止*5
|
あり(民商法1449条、1496条)
|
なし(憲法24条等)
|
地位による禁止*6
|
*6
|
なし(憲法24条等)
|
独立生計要件*7
|
*7
|
なし(憲法24条等)
|
女性の待婚期間*8
|
あり(民商法1453条)
|
あり(民法733条1項)
|
父母等の同意*9
|
あり(民商法1454条、1436条[同意]、1509条)
|
未成年婚の父母の同意はあり(民法737条1項)
|
異性同士であること*10
|
*10
|
必要
|
(但し、「渉外身分関係先例判例総覧」の訳文が前提であり、いわゆるこれは「訳文」たることの意味につき、各自の諒解を得られたい。なお、*11参照。)
*1 タイ民商法1458条では、登録官の面前で公開で宣言するといった様式行為なのに対し、日本法の合意は、実体的に存在すれば足り、市区町村の職員の面前で宣言するような行為は必要ではない。もっとも、日本法でもこの種の様式が問題になる場面もないわけではない。たとえば、「宣誓認証」制度における「宣誓」は、「公証人私署証書ニ認証ヲ与フル場合ニ於テ当事者其ノ面前ニ於テ証書ノ記載ノ真実ナルコトヲ宣誓シタル上証書ニ署名若ハ捺印シ又ハ証書ノ署名若ハ捺印ヲ自認シタルトキハ其ノ旨ヲ記載シテ之ヲ為スコトヲ要ス」る(公証人法58条の2第1項)。
なお、渉外身分関係先例判例総覧の訳文をそのままみると、第5章の1494条に「この章に定める場合に限り、無効とする。」とあるのに、6章の1505条、1506条、1507条、1509条も無効とするので、文理的に矛盾している。その原因がタイ語にあるのか訳文なのかは不明であるが、無効な婚姻と取消しうべき婚姻の区別に疑念があるので、タイについては、無効と取消についての比較は行わないこととする。一般には法律の世界で無効と取消の区別は相対的であり、よく混同されるという(戸籍時報562号75頁参照。なお、新版注釈民法(21)307頁の「確認の訴」か「形成の訴」かの論点参照。)。ただ、日本の民法の発想であれば、取消か無効かの区別は重要ではある。
なお、筆者はその後、英語圏のサイトで、大学の研究者が、タイ民商法1503条につき、「annulment」と表現しているのを発見した。
*2 但し、17歳未満でも、正当事由あるときで裁判所が許可した場合を除外している(民商法1448条)。これに対し、日本法ではこの意味の裁判所の許可は予定されていない。
*3 したがって、日本、中国、フィリピン、タイのいずれも重婚を認容しない。
*4 近親婚禁止の範囲は日本法の「3親等」は、叔父、叔母、甥、姪を含むのに対し、タイ民商法1450条にでは、基本的に兄弟姉妹の関係を射程にするので、より狭いと解される。比較法的には兄弟姉妹までを範囲とする国も多いとされる(新版注釈民法(21)・217)。なお、養親子関係も法文上は婚姻できない(民商法1451条)。
*5 中国、フィリピン、タイとみてきたが、いずれも、結果的には疾病による禁止規定が存することになる(タイ民商法1449条)。なお、タイ法においては、「禁治産宣告(現在の日本民法的にいえば「成年後見開始の審判」になる。日本の制度の改正で翻訳文まで変更しなければなるまい。)」を受けている場合も禁止されている。
*6 中国法と比較するために「地位による禁止」を掲げてみたが、一見では見当たらなかった。しかし、特別法にその種の規定(軍人等の外国人との婚姻禁止規定等)が存する可能性はあるので、留保としておきたい。
*7 独立生計要件とは、ここでは在職証明や資力証明の類をいうものとする。民商法の明文には無いように見受けられるが、筆者の経験では、在東京タイ国大使館でタイ人側の婚姻要件具備証明書を申請したときに、日本人側の在職証明書(等)を要求された。しかも認証を要求し、これは民間企業の場合、私文書なので、やむなく公証役場で署名認証した。現在でも、在職証明書そのものは当該大使館が基本的に採用する見解のようである。もっとも、最近は在特事案では大使館に相手にされないので、そういうこともなくなったが(在京タイ大使館の場合、近年、変動を重ねてきた。)。なお、タイ人側の婚姻要件具備証明書については、以前は「給与所得証明書(過去3か月遡ったもの)」や「納税証明書」が掲げられていたのに、現在は明示はされなくなった点にも注意したい。また、以前は、日本人側が女性の場合で無職の場合には在職証明書は要らないというような見解が大使館側から表明されていた。とすれば、在職証明というのは、やはり、婚姻の「実質的成立要件」ではないと解さざるを得ない。先にみたように、中国でも在職証明書という発想が出ることがあったので、婚姻の際に偽装婚防止等の視点での審査を行うという趣旨と思われる。それゆえに、元々明確な決まりがないので、頻繁に変動するものと解される。
なお、仮に無職者は婚姻できないというような外国の立法があった場合、日本法では基本的に公序則で排除されると解される。
*8 待婚期間違反(民商法1453条)の場合、タイ民商法では、無効ないし取消という規定は明文では見受けられない(民商法第5章、第6章。)。また、待婚期間の除外事由についてはタイ民商法のほうが日本民法733条よりも弾力的に思われる(民商法1453条各号)。
関連する知識として、日本人男性Aとタイ人女性Bの離婚が日本法で成立したが、たとえば、その離婚のタイでの登録が約半年後になってしまった場合に、Bが別の日本人男性Cと再婚するとき、その待婚期間の起算点をいつにするかという問題もある。この場合、在日タイ国大使館の見解で、タイ法上は、タイでの登録が離婚の成立日であるとするものがある。もし、タイ法上の離婚成立日を基準とすれば、その分、婚姻できる期日が遅れてしまう。そして、現在の入管は、基本的にはこのような場面の待婚期間での在留資格を認容しない場合が多い。すなわち、「待婚期間のための在留資格」は存在しない。その結果、その間、多くは一緒に暮らせなくなる。ちなみに、結論として、この場合は、日本での離婚成立日を基準とするのが実務である(「戸籍落葉100選2」307頁。)。
次に、日本での離婚成立日を基準としたとしても、日本法の待婚期間が「6箇月」であるのに対し(日本民法733条1項)、タイ法は「310日」の経過を要件とする(民商法1453条)。したがって、圧倒的にタイのほうが待婚期間は長い。約10か月も待っていては、ほとんどの事案は、本人の在留期限は切れるであろう。ではどちらを基準とするか。これは現在の実務は、より厳格なほうを適用する。難しい言葉でいえば、実質的成立要件につき、法例13条1項で配分的適用主義を採用しているが、待婚期間(再婚禁止期間)は双方的要件であると解釈されていて、この場合より長い期間を規定する本国法によると解されているからである(「厳格法の原則」。溜池良夫「国際私法講義」参照。)。したがって、日本法の6か月が経過しても、上記の設例のBとCは婚姻できない。これは、タイでは婚姻できないのはもちろん、日本でも婚姻できない、つまり、日本の市区町村も受理しない、という意味である(レジストラ111・324)。このように、国際結婚する場合には、自分の国の民法と相手の国の民法の両方を知っておかねばならない。
たとえば、在留期限直前に離婚して、いったん、帰国した場合、「在留資格認定証明書交付申請」+「在外公館での査証申請(や面接)」+「空港での上陸許可申請」を行うのが通例で、全部含めると、準備を入れれば、半年かかってもおかしくない。そうすると、10か月+半年=16か月も、日配として、一緒に暮らすのが遅れることも、理論的には、あり得る。さらに実務的に言えば、このようにいったん帰国する過程を経由すると、在外公館の査証申請等で、今まで隠匿していた本人の違法な瑕疵が発覚し、入国困難になることも多い。
適法な滞在者であるにせよ、このような設例のBとCは、離婚するに当たって、離婚したあとの再婚可能時期と、在留資格がどうなるのかの双方を検討したうえで、離婚するべきであろう。なお、離婚したら日配の在留資格は消滅するとか、取消されるから離婚しないほうがよいとか、の類の噂が「性懲りもなく」湧いてくるが、渉外戸籍法と入管法が交錯する分野は日本の法律学会でも未開の地であり、正確に回答できる者はほとんどいない。なお、その「噂」の一部は入管職員が意図的に、又は過失によって、流布しているものである。これに限らず、入管の分野では、入管の手のヒラの上で踊らされている場合が多い。なお、離婚しなくとも、実体の無い婚姻の場合、基本的に、在留資格は更新できない(これに関しては最高裁の判例もあるが射程は不明である。)し、また、「定住者」については、一般的な市販の本に書いてあることよりも、「現場」は厳しいことに注意が要る。
*9 タイ民商法では、20歳未満(行為能力。民商法19条。なお、「未満」は20歳を含まない。)のときは、父母等の同意が必要になる(民商法1454条、1436条[同意]、1509条)。なお、日本民法の一般的解釈では、日本民法737条1項の父母の同意は、実質的成立要件に分類されている(双書民法等)。
*10 タイ民商法では、「男女」とある(民商法1448条)。性同一性障害の場合で問題になる。
*11 なお、タイ本国政府(DEPARTMENT OF PROVINCIAL ADMINISTRATION)の対外向けの公式の「婚姻の要件」は以下のように表明されている。これは、はじめから英文でそのまま発表されているので、参考になろう。
Regulations
1. A couple must be of legal age (17 years) upon filing for marriage registration, otherwise permission must be granted by a court.
2. Permission from the parents is required for parties under legal age.
3. Both parties must not be registered as married to anyone else (Multiple marriage registration is prohibited).
4. The parties must not be direct blood relatives nor be sister or brother through either parent.
5. Adopting parents shall not be permitted to marry their own adopted child.
6. A widow or divorcee will be permitted to remarry not less than 310 days after the previous marriage has expired, unless
● Has given birth to a child.
● Remarrying the same person.
● Not pregnant, as certified by doctor. (in case of early remarriage)
● Approval to remarry from a court is obtained.
7. No service fee is required whatsoever.
|
|
|