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*フィリピン人国際結婚手続き2
Q:フィリピンで日本人とフィリピン人がフィリピン法で創設的に婚姻する場合の典型的な手続(形式的成立要件)について、日本で日本人とフィリピン人が日本法で創設的に婚姻する場合の典型的な手続(形式的成立要件。法例13条2項3項。)と比較して下さい。(試論)2005Aug14
A:
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フィリピン法の手続
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日本法の手続
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当事者出頭の要否*1
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要
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不要
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婚姻手続の担当機関*2
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地方身分登録官、及び、婚姻挙行官(家族法6条乃至25条)
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市区町村(戸籍課等)
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(実質的審査権限)*3
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*3
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無(但し、法務局等に注意)
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婚姻登録の要否*4
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*4
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要届出
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成立時期*5
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*5
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婚姻届受理時(届出日に遡及)
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婚前健康診断の要否*6
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不要
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不要
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成年の証人二人の要否*7
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必要(家族法6条)
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必要(民法739条2項。なお、742条2号但書に注意。)
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所用時間*8
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*8
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資料の揃い具合等により差異がある。
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婚姻の証明手段*9
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婚姻証書の原本(家族法23条)及び謄本
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婚姻届受理証明書、戸籍謄本、婚姻届(書)記載事項証明書
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カウンセリング*10
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一定の場合に要(家族法16条)
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不要
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*1 日本法では、当事者が出頭する必要はない。したがって、婚姻届に署名がしてあれば、第三者が持参してもよいことになる。それゆえ、婚姻届を出すその時点において、フィリピン人側が物理的にフィリピンに在っても、日本では婚姻可能であって、このような取扱を認容することにフィリピン政府が疑念を呈する可能性も存する場面もありうると解される(奥田安弘他訳「フィリピン家族法」28頁)。ただ、現在の日本の実務では、当事者が出頭しない場合、基本的に、当事者へ葉書を郵送する等で意思確認を行う等の適正手続に努めている。また、一般に、当事者が出頭しない婚姻届は稀であって、市区町村の担当者は偽装婚等を疑うと思われる。
もし、日本法で当事者双方の出頭を形式的(手続的)成立要件としたらどうなるか。入管に収容されている事案につき、婚姻できないことになり、人権救済の見地から著しく不都合が生じることが予想される。
なお、形式的成立要件ではないが、重要なこととして、一般に、日本人男性と外国人女性という組み合わせの渉外婚姻が多数発生する国においては、当該国において、国際結婚斡旋(紹介等)等の行為が禁止されて違法行為になっている場合があることに注意されたい。フィリピンも同様である(共和国法6955号)。それによれば、いわゆる国際結婚の紹介行為は、基本的に違法であり、「6年以上8年以下の懲役」であって、日本では考えがたいほどの頗る(すこぶる)重罰である(奥田安弘他訳「フィリピン家族法」107頁)。
*2 地方身分登録官とは、原則として(例外、家族法10条)、婚姻当事者の一方の常居所のある市町村の地方身分登録官とされる(家族法9条)。この点、「the city or municipality where either contracting party habitually resides」は、「6ヶ(ママ)月以上継続して居住しているまたは居住していた直近の住所地」とされる(在フィリピン日本国大使館)。次に婚姻挙行官とは、裁判官、司祭、船長、軍指揮官、領事等が一定の条件の下に、列挙されている(家族法7条。奥田安弘他訳「フィリピン家族法」75頁。)。そして、婚姻を挙行する場所は、教会だけとは限らない(家族法8条)。フィリピン法では、地方身分登録官と婚姻挙行官が分離し、公告期間がある(家族法17条)等のため、日本や、また、修正婚姻法と新婚姻登記条例の施行された中国よりも手続的負担は重いといえよう。
他方、日本の場合、これは基本的に市区町村に固定してあり、これ以外の機関は通常は想定されていないが、在外公館に出すような場面もありうる(但し、外国人との婚姻については在外公館でできるのは、報告的届出に限る。)。ただ、その場合でも在外公館を経由し、市区町村へ送られる。なお、法務局へ直接資料を提出することはできないのが原則であるが、受理照会中は法務局へ直接、追加書類等を提出することは可能であって、また時間の関係で必要な場合もある。
*3 (成立要件ではないが、便宜上ここに記載した。)
フィリピンの地方身分登録官には、「実質的審査権限」があるのか。「実質的審査権限」の定義に拠るが、外形標準だけで判断せず、実体を審査するという趣旨ならば、家族法18条、及び婚姻障碍があると判断するときに、地方身分登録官が裁判所に婚姻許可証の差止命令を求めるべきであるとする(奥田安弘他訳「フィリピン家族法」89頁)等のその解釈から、存するともいえる。
日本の官吏には、「実質的審査権限」が存しないとされる(加藤美穂子著「詳解中国婚姻・離婚法」75頁)。この意味は、届書や添付資料等の外形を標準とし(一種の外形理論)、いわば外観で判断するという趣旨と解することが可能である(なお、「新版注釈民法」21、283頁。)。したがって、日本法の手続きでは、「当事者を喚問したりあるいは証拠を提出させたりしなければ判別しにくい事項までも審査する権限を有しない」(前掲書、283頁。)。これが建前であって、日本のどんなに専門的な文献にもその程度のことしか書いてはいない。しかし、実務はそうとは言えない。たとえば「当事者を喚問」することはあるし、「証拠を提出させたり」することもある。また、「当事者を喚問」した際の質問は、当事者の出会いのきっかけから現在に至るまで経緯にまで質問が及ぶこともある(入管が目を付けた場合ほどではないが。)。日本人同士の夫妻には想像もつかないかもしれないが、これが国際結婚の場合で、かつ、法務局へ受理照会された場合の、しばしば見られる事実である。
*4 フィリピン法でも基本的に必要と解される。挙行官による様式まで必要なので単なる登録以上に手続的負担が大きい。なお、5年以上の内縁につき、婚姻許可証を不要とする特則につき、家族法34条があり、一定の内縁を保護する配慮も見られる。
*5 在フィリピン日本国大使館の採用する「学説」では、「婚姻当事者双方及び証人が婚姻証明書に署名し、これを婚姻挙行担当官が認証することにより婚姻が成立」するという(家族法6条等参照。)。この見解によれば、成立時期は、婚姻挙行官の認証時であるということになりそうである。ちなみに、中国では、結婚証の取得を成立時期としている(中国婚姻法8条中段。加藤美穂子著「詳解フィリピン婚姻・離婚法」70頁。)。これに対し、日本法ではフィリピン家族法のような「婚姻挙行官」は存しないが、かといって諾成契約でもない。すなわち、「届け出」し、かつ受理されて成立する。
なお、成立時期について補足しておく。先にフィリピンで婚姻した場合、フィリピン法で婚姻が有効に成立した時点で、同時に、日本法でも有効に成立していることに注意されたい。ネット上でよく誤解されている点である。したがって、日本人がフィリピン人とフィリピンで、フィリピン法で、婚姻したが、日本には未届の場合でも婚姻は「日本法でも」成立しており、その場合、フィリピン人側は、たとえ日本人側がする意思がなくとも、「単独で日本へ婚姻届を出すことができる」。けだし、これが「報告的婚姻届」の「報告」たる意味だからである(同旨、「戸籍落葉100選2」・295)。なお、この場合、フィリピン人は日本にいなくとも、フィリピンから「勝手に」手続を行うことは可能である(郵送でよい。レジストラ111・83、111・315、111・286)。報告的届出なので、成年の証人二人も、日本人側の署名も要らない。そして、その結果、重婚が露見した場合、日本人側は重婚罪の構成要件該当性が生ずる(「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。」。日本刑法184条)。但し、筆者の経験上、真に婚姻しており、要保護性の存する外国人配偶者がいる一方、相続等の財産を目当てに、偽造の婚姻証明書が送付されて来たものと推定できるような場合があるので、一概にはいえず、市区町村等は慎重に対応しなければならない。たとえば、日本人側の死亡後、アフリカの某国から生前に婚姻していたとの婚姻証明書が送付されてきたような例もある(レジストラ111・286の場面であって、珍しくないことが伺われる。)。そのときの遺族の対応は厳しい。
なお、これに関連して、「届け出がないと日本の戸籍上婚姻したことにならず」という「学説」(異説)が見られるが(在フィリピン日本国大使館)、このような説明の仕方が、インターネット上に、誤解を惹起しているように思われてならない。読者に警鐘を鳴らしておくが、一般に外務省は法務省のように「法務」を専門にしているわけではない。筆者は外務省の高官と直接話してみたこともあるが、あくまで外務省は「外務」、「外交」が専門と解される。
*6 中国法の旧婚姻登記管理条例と比較するために、掲げた項目であるが、フィリピンでもそのような規定は見当たらない。但し、病気で構わないというわけでもない(家族法36条、45条5号6号)。
*7 日本法で成年の証人二人を要件とした趣旨は、基本的には当事者の婚姻意思の確認に存するとされる(「新版注釈民法」21、252頁。)。フィリピン法では当事者の本人出頭を徹底しているのに対し、日本法ではそうでもなく、郵便による婚姻届出すら認容しているので、「成年の証人二人」を要件として、適正化を図ったとも解釈可能であろう(なお、郵送は創設的婚姻届の場合にも及ぶことにつき、レジストラ111・83)。ただ、フィリピン家族法6条では「in the presence of not less than two witnesses of legal age」と規定されているので、日本法のように単に証人の署名だけ取り付ければ足りるというものではないことになる。ちなみに、現在の日本の婚姻届書の書式には、「署名を偽造した者は犯罪として処罰されます。」の類の印刷文は存しないが、ほとんどの人は処罰されることを知らないと思われ、警告するために、印刷しておくべきであると解する。
*8 地方身分登録官が婚姻許可証を発行するまでに「10日間」の「公告」が存する(家族法17条)。なお、婚姻挙行官が婚姻証書の謄本を地方身分登録官に送付するのは「15日以内」である(家族法23条。奥田安弘他訳「フィリピン家族法」93頁)。そして、「Please remember to get certified true copies of the marriage contract from the local civil registrar.」とある(フィリピン政府FAQ)。
*9 形式的成立要件ではないが、便宜上併せて整理しておいた。なお、フィリピンで先に婚姻した場合、婚姻時に、日本での(報告的)婚姻届出用に、併せて、出生証明書を得ておく場合が多い。このような場面の場合、フィリピン人側の各種身分証明関連書類は、日本の婚姻届用と、入管用に複数部取り付けておくことが望ましい。なぜなら、日本の婚姻届の役所と入管は全く別の役所だからである。そして、入管は、婚姻の証明としては、日本側(戸籍)とフィリピン側(婚姻証書等)の両面を観るのが原則である(在特の場面は除かれ得る。)。
ちなみに、興味深いことに、出生証明書それ自体は、日本の戸籍法の婚姻届の場面では、創設的届出であれ、報告的届出であれ、「正確には」不要である(多々、不正確な実務ないし現場が存在するが。法務局サイドは添付が望ましいとの指導を出しているとのことであり、「望ましい」がいつのまにか「MUST」になっているきらいがある。)。他方、入管の日配の認定の申請の如き場面において、出生証明書を要求するかは、入管の政策判断であり、東京入管についていえば、「近時は」デフォルトで原則として、要求する。そのうえ、東京入管本局では在特の場合にフィリピンの出生証明書の訳文を要求しないのに、横浜では要求しているような時期もある。確かに、フィリピンの出生証明書は判読できない場合があり、実際問題、フィリピン人本人がいないと婚姻届が円滑に行かないこともある。
なお、国籍の証明書は準拠法を決定するうえでも必要であるが(なお、戸籍法施行規則56条1項)、その証明としては、フィリピンに限らず、婚姻証明書や出生証明書の類に国籍証明の記載のあるときは、別途の国籍証明書や旅券は不要である(レジストラ111・220)。
*10 18歳以上25歳未満の場合で、カウンセリング(年齢要件が一方のみに適用されるときでも、当事者双方に必要。)を受けた証明書が無いときは、婚姻許可証の発行が遅延すると規定されている(家族法16条)。なお、カウンセリング等につき、フィリピン政府のFAQは以下のとおり。「Certificate of Attendance in a pre-marital counseling and family planning seminar conducted by the Division of Maternal and Child Health at the Municipal/City Hall in the same municipality or city where the contracting parties applied for the marriage license.」
[フィリピン家族法] (原文抜粋)
Art. 6. No prescribed form or religious rite for the solemnization of the marriage is required. It shall be necessary, however, for the contracting parties to appear personally before the solemnizing officer and declare in the presence of not less than two witnesses of legal age that they take each other as husband and wife. This declaration shall be contained in the marriage certificate which shall be signed by the contracting parties and their witnesses and attested by the solemnizing officer.
In case of a marriage in articulo mortis, when the party at the point of death is unable to sign the marriage certificate, it shall be sufficient for one of the witnesses to the marriage to write the name of said party, which fact shall be attested by the solemnizing officer. (55a)
Art. 7. Marriage may be solemnized by:
(1) Any incumbent member of the judiciary within the court's jurisdiction;
(2) Any priest, rabbi, imam, or minister of any church or religious sect duly authorized by his church or religious sect and registered with the civil registrar general, acting within the limits of the written authority granted by his church or religious sect and provided that at least one of the contracting parties belongs to the solemnizing officer's church or religious sect;
(3) Any ship captain or airplane chief only in the case mentioned in Article 31;
(4) Any military commander of a unit to which a chaplain is assigned, in the absence of the latter, during a military operation, likewise only in the cases mentioned in Article 32;
(5) Any consul-general, consul or vice-consul in the case provided in Article 10. (56a)
Art. 9. A marriage license shall be issued by the local civil registrar of the city or municipality where either contracting party habitually resides, except in marriages where no license is required in accordance with Chapter 2 of this Title. (58a)
Art. 17. The local civil registrar shall prepare a notice which shall contain the full names and residences of the applicants for a marriage license and other data given in the applications. The notice shall be posted for ten consecutive days on a bulletin board outside the office of the local civil registrar located in a conspicuous place within the building and accessible to the general public. This notice shall request all persons having knowledge of any impediment to the marriage to advise the local civil registrar thereof. The marriage license shall be issued after the completion of the period of publication. (63a)
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