フィリピン人との国際結婚の手続
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*フィリピン人国際結婚手続き4

Q:フィリピンの婚姻法の無効・取消と、日本民法の無効・取消について比較して下さい。
A:(試論)2005Aug14

1

フィリピン法*2

日本法(民法)*3

婚姻意思の欠缺*4

無効(家族法22号、355号)

無効(民法7421号)

婚姻意思の瑕疵(人身売買、強迫、欺罔等)*5

取消(452号乃至4号、46条)。

瑕疵の程度に応じ、取消(民法7471項)又は無効(民法7421号)

重婚*6

無効(家族法354号、41条)

取消(民法7441項)

不適齢婚*7

無効又は取消等(家族法21号、5条、351号、14条、15条、451号)

取消(民法7441項、745条)

近親婚*8

無効(家族法5条、37条、381号乃至8号)

取消(民法7441項)

婚姻禁止疾病規定等に違反する婚姻*9

無効(家族法36条)又は取消(4556号)

(有効。そもそも禁止規定なし。)

未登記・未登録婚*10

10

無効(民法7422号本文)

無効の効果*11

11

遡及効ないし原始的に無効

取消の効果*12

12

遡及的に無効ではなく、いわゆる将来効である(民法7481項)。

待婚期間内の婚姻*13

(有効。そもそも家族法では禁止規定なし。)

取消(民法7441項、746条)


*1 便宜上、若干、離婚を含む。

*2 フィリピン家族法では無効や取消原因の中に日本でいう離婚原因を射程にする。

*3 日本法で「無効」・「取消」は民事法でも非常に様々な意味合いで用いられるが、一般には、「無効」はそのままでは無効に他ならないが、「取消」はそのままでは有効である点が異なる。なお、私が学生の頃に読んだ民法の基本書に「取消の場合には・・・有効になることがある」と記載してあったが(Sシリーズ民法1)、取消とは元々、一応有効なのであって、有効に確定するというのが正確である。

*4 日本法では、強度の強迫で全く意思の自由を喪失したときは、意思欠缺で「無効」と解する(通説)。

*5 取消原因として18歳以上21歳未満で同意の欠けたとき(45条1号)、正常な判断能力に欠けるとき(2号)、詐欺(3号)、強迫等(4号)、肉体的不能(5号)、一定の性病(6号)が掲げられている。また、46条には詐欺の定義が掲げられているが、46条2項が興味深い。法文に曰く「No other misrepresentation or deceit as to character, health, rank, fortune or chastity shall constitute such fraud as will give grounds for action for the annulment of marriage」であるから、性格や健康や地位や財産や貞操で虚偽を述べて婚姻しても、ここでいう「詐欺」ではなく、アナルメントはできないという趣旨になる。

*6 フィリピン法では、フィリピン法と同様、重婚を「無効」と解しているが、日本法では取消原因である。なお、このような場合、日本の市区町村は「原則として」受理できない。例外的場面につき、レジストラ111・374は家族法41条の場合を説示する。ただ、奥田教授の解説書がある等、フィリピンだからまだ調査の基礎にする資料があってよいが、これがもっとマイナーな国の場合の調査は難しい。婚姻可能か調査するのに約2年かかって、その間、婚姻できなかったという事案を法務局職員に聞いたことがある。なお、以下は参考裁判例である。
[大阪家裁昭52・11・1審判]
「法例第13条第1項本文によれば、婚姻成立の要件は各当事者につきその本国法によつて定めるべきところ、申立人の本国法である日本法によれば重婚における後婚は取り消し得べき婚姻であり、申立人と重ねて婚姻した男の本国法フイリピン法によれば上記婚姻は無効であるが、そのような婚姻は結局無効になるものと考えられる。したがつて、主文記載の申立人の戸籍の婚姻事項は、無効な身分行為についてなされた戸籍の記載であるから、戸籍法第114条により消除されるべきものである。なお、上記婚姻はタイ国の方式によつて婚姻した時に成立しているのであつて(法例第13条第1項ただし書)、日本で婚姻証明書を提出した時に成立したものではないが、これもまた戸籍法第114条の「届出によつて効力を生ずべき行為」ということができる。さらにまた、本件のような事案においては、婚姻無効の確定判決または家事審判法第23条の審判によらないで、戸籍法第114条により戸籍の訂正をすることができるものと解する。」

*7 フィリピン法では、年齢の問題は場合分けして考える。まず、18歳に満たない場合には、婚姻の行為能力が無く、無効である(家族法2条1号、5条、35条1号)。次に、18歳以上21歳未満のときで(家族法14条)、父母の同意等の要件を欠くときは、取消原因になる(家族法45条1号)。そして、21歳以上25歳未満のときで(家族法15条)、父母の助言等の要件を欠くときは、取消原因にならない(奥田安弘他訳「フィリピン家族法」86頁)。

*8 フィリピン家族法では、フィリピンの修正婚姻法10条2号と同様、近親婚を「無効」と表現する。日本法の婚姻の無効の範囲が比較的に狭く、取消原因が多いのは、法的安定性を重視したものともいえる(日本民法748条等)。

*9 フィリピン家族法45条5号6号は一定の肉体的不能や性病等を取り消し原因とする。他方、家族法36条は「psychologically incapacitated to comply with the essential marital obligations of marriage」の部分が拡大解釈され、カトリックの影響で「離婚」できないので「無効」という言葉で代用している側面もあると解される(なお、奥田安弘他訳「フィリピン家族法」15頁)。ちなみに、同書によれば、フィリピンでは「離婚」できないが、日本では「離婚」できる(法例16条但書。同書33頁)。これに関連して、筆者は、日本の裁判例を検索してみたところ、改正前の法例(旧)16条本文の不平等条項等と相俟って、日本の裁判所が公序則を援用して、フィリピン法の離婚禁止を排除して、「離婚」を認容するようなものが目についた。現在では法例も改正されているし、フィリピン法も変動しているので、先例をみるときは注意しなければならない。たとえば、少なくとも現在においては、フィリピン家族法26条2項「Where a marriage between a Filipino citizen and a foreigner is validly celebrated and a divorce is thereafter validly obtained abroad by the alien spouse capacitating him or her to remarry, the Filipino spouse shall have capacity to remarry under Philippine law.」に注意が要るとされる。前掲書98頁には、裁判離婚でのどちらが原告・被告になるかが重要になることが示唆され、その種の発想は日本法だけ読んでいても、予想もつかない。フィリピン人との婚姻関連事案を処理するには、必読の書である。筆者の知見で、フィリピン人と日本人とが日本で協議離婚し、すぐに日本で別のフィリピン人と再婚し、それをフィリピン政府当局へ告知したところ、「あなたは重婚です(フィリピン法では離婚できていません。)。」という趣旨で回答された事案を記憶している(このとき、必ずしも、フィリピン政府サイドは、日本人の重婚状態になる可能性を、事前に認識してはいなかった。なお、決して、筆者が協議離婚を奨めたわけではない。)。日本人側としては、重婚になるならそれを先に言って欲しいという感もあるわけだが、難解過ぎて、普通の人には(否、「普通の実務家」にも・・・)対応できないであろう。なお、奥田教授によれば、この類のテーマについては、極めて著名な大学教授(法務局や市区町村を指導する立場にあるような。)でも誤解し、著書に堂々と誤ったことを書いている先生が存するようである(誤りを恐れては本は書けないが。)。とすれば、自分の住んでいる市区町村の戸籍課ないし市民課の類の職員に聞くのは、法律関係を徒に危殆化するもので、畢竟、自殺行為ですらあろう(なお、インターネットの掲示版は論外である。)。市区町村職員もそれを自覚してか、特に在特が絡む事案は、たまに筆者のところに市役所等から相談の電話がかかってくることすらある(市では回答できないので、そちらへ本人に電話させてもよいか、等の。市役所の経費節減であろうか。)。結局、渉外家事法の分野は奥田教授等の数人の専門家しか理解されていないことになる。思えば、民法でも我妻栄教授(東大名誉教授、文化勲章授章、法務省特別顧問。)しか理解していなかったという見方もあるので、法律はそういう現象はあるのだと思われる。
 なお、フィリピン法で重婚は無効であるところ、入管が重婚状態で日本人の配偶者等の在留資格を許可するとは(原則として)、「相当性」は無く、解されない。それに重婚者は、少なくとも、重婚罪の客観的構成要件要素に該当する。よって、一緒に暮らせなくなる可能性がある。

*10 在フィリピン日本国大使館の採用する「学説」では、「婚姻当事者双方及び証人が婚姻証明書に署名し、これを婚姻挙行担当官が認証することにより婚姻が成立」するという(家族法6条等参照。)。この見解によれば、成立時期は、婚姻挙行官の認証時であるということになりそうであるわけであるが、とすれば登録というよりも、婚姻挙行官の認証がメルクマールとも思われる。ただ、家族法34条で、単なる内縁関係を法律婚と区別しているのは明らかである一方、法33条では少数民族につき、「婚姻許可証」を不要としている。

*11 「The following marriages shall be void from the beginning」という規定が存する(家族法35条)。

*12 「Art. 50. The effects provided for by paragraphs (2), (3), (4) and (5) of Article 43 and by Article 44 shall also apply in the proper cases to marriages which are declared ab initio or annulled by final judgment under Articles 40 and 45.」という規定が存する(家族法50条)。

[フィリピン家族法] (原文抜粋)
Art. 46. Any of the following circumstances shall constitute fraud referred to in Number 3 of the preceding Article:
(1) Non-disclosure of a previous conviction by final judgment of the other party of a crime involving moral turpitude;
(2) Concealment by the wife of the fact that at the time of the marriage, she was pregnant by a man other than her husband;
(3) Concealment of sexually transmissible disease, regardless of its nature, existing at the time of the marriage; or
(4) Concealment of drug addiction, habitual alcoholism or homosexuality or lesbianism existing at the time of the marriage.

No other misrepresentation or deceit as to character, health, rank, fortune or chastity shall constitute such fraud as will give grounds for action for the annulment of marriage. (86a)
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