ロシア人との国際結婚の手続
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*ロシア人国際結婚手続き2

Q:ロシアで日本人とロシア人がロシア法で創設的に婚姻する場合の典型的な手続(形式的成立要件)について、日本で日本人とロシア人が日本法で創設的に婚姻する場合の典型的な手続(形式的成立要件。法例13条2項3項。)と比較して下さい。(試論)2005Aug19
A:

 

ロシア法の手続

日本法の手続

当事者出頭の要否*1

要(家族法11条)

不要

婚姻手続の担当機関*2

身分証書登記機関(家族法10条)

市区町村(戸籍課等)

婚姻登録の要否*3

要登録*3

要届出

成立時期*4

登録時*4

婚姻届受理時(届出日に遡及)

婚前健康診断の要否*5

5

不要

成年の証人二人の要否*6

6

必要(民法7392項。なお、7422号但書に注意。)

所用時間*7

原則1か月(家族法11条)*7

資料の揃い具合等により差異がある。

婚姻の証明手段*8

婚姻証書等*8

婚姻届受理証明書、戸籍謄本、婚姻届(書)記載事項証明書

カウンセリングの類*9

9

不要


*1 ロシアの家族法では、「当事者が出頭して行われる」と規定がある(11条。「新版渉外戸籍のための各国法律と要件」674頁)。また、「婚姻登録申請のときも、その一ヶ月後の結婚登録のときも、婚約者二人が参加しなければな」らない、というのが、在札幌ロシア連邦総領事館の見解である。もっとも、一切の例外を認容しないかは定かではない。他方、日本法では、当事者が出頭する必要はない。したがって、婚姻届に署名がしてあれば、第三者が持参してもよいことになる。それゆえ、婚姻届を出すその時点において、ロシア人側が物理的にロシアに在っても、日本では婚姻可能であって、このような取扱を認容することに、今後、ロシア政府が疑念を呈する可能性も存する場面も絶対ないとは言えないと解される(フィリピン法の文献だが、奥田安弘他訳「フィリピン家族法」28頁の論旨は参考になる。なお、ロシア家族法158条2項は、渉外婚姻の方式につき挙行地法を採用すると解釈可能であるが、問題は挙行地の解釈である。なお、条文は、「新版渉外戸籍のための各国法律と要件」679頁、笠原俊宏著「国際家族法要説[新訂補正版]」352頁。)。ただ、現在の日本の実務では、当事者が出頭しない場合、基本的に、当事者へ葉書を郵送する等で意思確認を行う等の適正手続に努めている。また、一般に、当事者が出頭しない婚姻届は稀であって、市区町村の担当者は偽装婚等を疑うと思われる。
 もし、日本法で当事者双方の出頭を形式的(手続的)成立要件としたらどうなるか。入管に収容されている事案につき、婚姻できないことになり、人権救済の見地から著しく不都合が生じることが予想される。ただ、比較法的に本人出頭を要しない日本法は例外的法制であることも否定できまい。

*2 「戸籍登録部」(在札幌ロシア連邦総領事館の表現)ないし「身分証書登記機関」(「新版渉外戸籍のための各国法律と要件」674頁の表現)が、ロシアでの婚姻手続の担当機関である。
なお、「領事婚(外交婚ともいう)」につき、在札幌ロシア連邦総領事館は、「婚約者が二人ともロシア人であれば、ロシア領事館で手続きをすることができますが、日ソ領事条約によって婚約者の一人が日本人であればできません。」との見解を表明されるが(なお、ロシア家族法157条参照。)、より細かくいえば、仮にロシア政府側がロシア法に拠って、在日のロシア国公館において、領事婚を認容したとしても、日本では、法例13条3項但書により、日本人と婚姻する場合は、領事婚を創設的婚姻とすることは認容されない(レジストラ111・87)。したがって、日本に在留するロシア人と日本人とが、(最初に)日本の在日ロシア大使館等で「領事婚」により、婚姻をしたとしても、それは日本法では「創設的」婚姻として有効ではない。

[法例](日本の国際私法)
第十三条 婚姻成立ノ要件ハ各当事者ニ付キ其本国法ニ依リテ之ヲ定ム
2 婚姻ノ方式ハ婚姻挙行地ノ法律ニ依ル
3 当事者ノ一方ノ本国法ニ依リタル方式ハ前項ノ規定ニ拘ハラズ之ヲ有効トス但日本ニ於テ婚姻ヲ挙行シタル場合ニ於テ当事者ノ一方ガ日本人ナルトキハ此限ニ在ラズ

*3 ロシア法でも基本的に必要と解される(ロシア家族法10条)。

*4 基本的に登録時と解される(家族法10条)。ただ、日本法のように、「受理」とか「受け付け」等の概念はあり得る。

*5 「新版渉外戸籍のための各国法律と要件」675頁によれば、ロシア家族法の15条では任意的な婚前健康診断的な規定がみられるが、その運用は不明である。

*6 「新版渉外戸籍のための各国法律と要件」によれば、ロシア家族法の明文では存しない。なお、この日本民法の「成年の証人二人」と未成年婚の父母の同意(民法737条1項)は別の事柄である。

*7 ロシア家族法11条で、1か月の待機期間が法定されている(同旨、在札幌ロシア連邦総領事館)。熟慮期間かと思われる。実際には準備期間も必要なので、2か月程度かかることもあり得よう。

*8 形式的成立要件ではないが、便宜上併せて掲げておいた。在ユジノサハリンスク日本国総領事館筋では「婚姻証書」が援用されている。
なお、ロシアで先に婚姻した場合、婚姻時に、日本での(報告的)婚姻届出用に、併せて、ロシア人の出生証明書等を日本政府側から要求される場合もあるかもしれないが、出生証明書については(やはり)必須ではない(近時、創設の場合で、要件具備証明書が無く、かつ、収容案件での法務局照会で確認済。)。
なお、このような場面の場合、ロシア人側の各種身分証明関連書類は、日本の婚姻届用と、入管用に複数部取り付けておくことが望ましい。なぜなら、日本の婚姻届の役所と入管は全く別の役所だからである。そして、入管は、婚姻の証明としては、日本側(戸籍)とロシア側(婚姻を証する書面)の両面を観るのが原則である(在特の場面は別途の考察が必要。)。もっとも、届書記載事項証明書を使えば、入管に出す身分証明書の部数が足りないのを補う効果はある(但し、届書記載事項証明書は、発行の要件につき、市区町村が勘違いしている場合があり、発行を渋るケースが多い。)。
ちなみに、入管の日配の認定の申請の如き場面においては、出生証明書(の類)を要求するかは、入管の政策判断であり、東京入管についていえば、「近時は」デフォルトで原則として、要求する。
なお、日本の手続においては、国籍の証明書は準拠法を決定するうえでも必要であるが(なお、戸籍法施行規則56条1項)、その証明としては、婚姻証明書や出生証明書(の類)に国籍証明の記載のあるときは、別途の国籍証明書や旅券は不要である(レジストラ111・220)。

*9 外国の立法例では、夫婦でカウンセリング(夫婦生活の心構え等の。)を受講することを要件にする国があるが、ロシア家族法の明文では存しない。なお、一般に、社会保障制度の整備の度合い(整備が進んでいないと、家族的結合で補完する度合いが高まり、婚姻の影響が大きい。)と、婚姻手続の煩雑さの度合いは無関係ではあるまい。
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